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高知地方裁判所 平成2年(行ウ)6号 判決

理由

一  請求原因1、2(一)ないし(四)、3、6の各事実は、いずれも当事者間に争いがないから、まず、請求原因4(本件用途廃止及び本件売買の違法性等)につき判断する。

二  本件用途廃止及び本件売買等の経緯

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件土地の形状

本件土地は、東西約九・一メートル、南北約〇・八四メートルの長方形の土地であり、北側(約九・一メートル)は被告博明所有の二六七一番一〇の土地に、東側(約〇・八四メートル)は原告勇所有の二六七一番一一の土地に、南側は幅約二メートルの水路を隔てて、幅約四・五メートルの市道に、西側は市所有の二六七一番一の公衆用道路(幅約四メートルの袋地様通路)に、それぞれ接している。

2  高知市の本件土地取得の経緯

(一)  市は、昭和四九年四月、高知住宅団地建設事業共同組合から、二六七一番一の宅地(九四・三〇平方メートル)他一七筆合計一四六五・七三平方メートルについて、道路用地として寄付を受け、公衆用道路とした。

(二)  被告博明は、昭和五二年三月ころ、二六七一番一の土地の一部が、北側を同人所有の乙二六七一番五の土地、南側を同人所有の二六七一番一〇の土地に挟まれ、南北〇・八五メートル(東西約九メートルの範囲で袋地となるため、市に対して、同人所有の二六七一番一〇の宅地の南側部分を本件土地(当時公簿面積七・九平方メートル)として分筆し、右袋地と本件土地を交換することを申し出た。

(三)  市では、右申出を受けて、右袋地が「道路としての形態はなく、幅員も狭く、袋地で利用度もなく、今後拡幅する用地取得も困難であること」、また、本件土地の方が「市道沿いにある水路に隣接しており、将来道路拡幅工事を行う際にも利用度が高く思われること」から、両土地を等価値として交換することを決定した。

そして、市は、昭和五二年五月一六日付で、右袋地を二六七一番一三(七・九平方メートル)として分筆し、隣接土地所有者の同意を得たうえで、同年五月三〇日付で公衆用道路としてみ用途を廃止して、地目を公衆用道路から宅地に変更し、同日、本件土地との交換契約を締結した。その結果、市は、本件土地を取得し、同年六月二五日、用途を公衆用道路に変更し、行政財産とした。

なお、本件土地の面積については、昭和五七年に錯誤を原因として七・六五平方メートルに変更登記された。

3  原告らの隣接土地取得

原告武彦は、昭和五五年八月一日ころ、本件土地及び被告博明所有の二六七一番一〇の土地の東側に、まず、二六七一番一一の宅地の所有権を取得し、その後、右土地に、昭和五七年七月二二日、同番六の土地を、昭和五八年一月二七日、同番一九の土地を、それぞれ合筆し、昭和五八年二月九日に、右土地を東西に分けて、西(本件土地)側の同番一一の宅地(一一四平方メートル)と東側市道(幅四メートル)側の同番二九の宅地(一〇〇・四二平方メートル)に分筆し、同年五月二一日ころ、分筆後の同番一一の宅地を、同人の弟である原告勇に代金一〇〇〇万円で売却した。

なお、原告らは、右各土地を将来の住宅建築用に所有しているものであるが、現在は空き地であり、具体的な建築計画はない。

4  本件用途廃止及び本件売買の経緯

(一)  被告博明の息子である都築祐司は、被告博明所有の二六七一番一〇の土地に注宅を建築することを計画し、その際、右土地の南側に隣接する本件土地の払下を受けて一体として利用することを計画し、平成元年五月二〇日付で、本件土地の払下申請書を提出した。

(二)  市道路課では、右申請に対処するため、本件土地について、平成元年五月一九日ころ、現地調査したが、その結果は、本件土地と北側の被告博明所有地との境界は、都築方の塀があり、その南側には、低木、雑草が茂り、水路の上まで枝を張り出した状態であって、周辺住民が全く利用していないと考えられる状況であり、また、南側水路の浚渫場所として使われた様子もなかった。また、東側に隣接する原告勇所有地からは、水路を隔てて南側市道(幅四メートル)に面しており、原告勇所有地から右市道には、幅四メートル(うち二メートルは原告武彦所有地部分)のコンクリートの床板橋がかかり、通路として右床板橋により南側市道を利用できると考えられる状況であった。

そこで、市道路課では、本件土地の用途廃止及び払下につき検討し、南側道路の拡張計画がないこと、現地調査の結果からも利用されていない状態であることが明らかであったこと等から、行政財産として維持していく必要がないと判断し、公衆用道路の用途を廃止し、本件土地を払い下げることとした。

(三)  なお、市の事務処理としては、市道の用途廃止に際しては、通常、利害関係人として隣接土地所有者の同意を得ていたが、本件用途廃止に際しては、市道路課では、本件土地は原告勇所有の二六七一番一一の土地にも隣接するが、本件土地が狭小である上、現況調査の結果等から通路としての機能を失っていること、原告勇所有土地からは、水路を挟んだ南側市道に床板橋によって通行できること等から、本件用途廃止について同意を要する利害関係人に当たらないと判断して、原告勇に同意を得る手続を取らなかった。

(四)  払下の売買価格については、本件申請を受けて、市道路課は、管財契約課に、本件土地につき、現況が宅地であるものとし、「道路線形外の不要部分があるため、宅地として払下げするもの」との理由で、評価を依頼し、管財契約課では、高知市不動産評価員である四人に、本件土地の評価を依頼し、その結果、平成元年六月一二日の本件土地の評価として、一平方メートル当たり、評価員ごとに四万四〇〇〇円、四万五九〇〇円、四万六六〇〇円、五万七三〇〇円との評価格を得た。

そして、市道路課は、管財契約課と協議し、右各評価のうち、五万七三〇〇円について、他の評価と比較して少し高額であるので除外し、他の三評価のうちの最高額である四万六六〇〇円を採用することとしたが、被告博明側との交渉過程で、同人から、本件土地が、昭和五二年当時交換した土地であること、現況は、自宅に隣接して花や木が生えており、庭のようなものであること、建築の際に水路沿いに一杯には家を建てられないこと等を主張して、右の価格では高くて買えないとの申し入れがあった。

そこで、市道路課、管財契約課では、本件土地を道路として使用できる見込みがなく、また、将来、維持管理や境界等の問題が出てくるおそれがあること等から、可能であれば、この際処分したいとの考慮の下に、売買価格の減額を検討し、高知市の「私道買収の減価基準」によれば、市が専用私道を買収する場合に、現況が道路として利用されていることによる価値減少分を三〇パーセントの範囲で減価するものとされていることを参考にして、三〇パーセントの範囲で減額することができるものと判断して、一平方メートル当たり四万六六〇〇円を三〇パーセント減額した三万二六二〇円に、本件土地の面積を乗じた二四万九五四三万円まで減額することができると判断した。

(五)(1)  そして、元年七月三日付で、「当該地は道路線形外の不要地であり、現在公共の用に供していない。」との理由により、廃止後は払下申請をしている隣接土地所有者に売却することを前提として、本件土地の行政財産としての用途を廃止し、本件土地を建設部長から総務部長に引き継ぐ決定をした。

なお、行政財産の用途廃止の決定は、高知市公有財産規則三四条により市長決裁が必要であるのに、本件用途廃止の決定は、建設部長決裁でなされた。

(2)  また、売買価格については、前記四万六六〇〇円が「宅地として評価したものであるが、本件土地は、昭和五二年に被告博明所有の土地を水路の浚渫場として交換により取得した土地であるので宅地単価で売却するのは適当でない。」との理由で、私道買収の減価基準を準用して二四万九五四三万円を交渉価格とすることとした。

(3)  引継を受けた総務部(所管・管財契約課)では、本件土地が、都築祐司の所有ではなく、父親である被告博明の所有であるため、被告博明から、同年八月二一日付で、本件土地の払下申請書の提出を受けたうえで、被告博明に本件土地を売却することとし、その際、売却手続については、「本件土地は、道路敷の不用地であり、面積も狭小で、隣接者しか利用できない土地であり、地方自治法施行令第一六七条の二第一項第二号(性質又は目的が競争入札に適さないもの)に該当する。」との理由で、随意契約により売却することとし、平成元年九月二日、管財契約課長決裁で、本件売買の契約を締結した。

5  原告らは、その後、本件土地が被告博明に売却されていることを知り、平成二年八月七日、高知市監査委員に対して、本件用途廃止及び本件売買について、利害関係人である原告勇の承諾を得ていないこと、売買価格が不当に安いこと、公開入札によるべきであるのに随意契約によったこと等を違法・不当事由として監査請求したが、右請求は、同年一〇月四日棄却された。

そして、右監査の結論は、「本件財産処分は、その事務処理において若干遺憾な点が認められるものの、正当な業務執行の範囲を逸脱しているとは言えず、不当、違法とすべき理由は認められない。」というものであった。

6  本件用途廃止については、当初は建設部長の決裁でなされたが、その後、市長には、概要説明がなされ、さらに、平成三年二月六日、「既に市長の追認が実質上あったものと考えるが、事務処理の適正化のため、改めて決裁を求める。」との理由で、本件用途廃止を追認して承認する旨の市長決裁がなされた。

三  右の事実を前提として、原告主張の各違法事由の有無につき検討する。

1  本件用途廃止についての市長の承認の欠如

(一)  前記のとおり、本件用途廃止については、市長の事前承認はないが、事後に承認されている。

(二)  この点、原告は、事後承認は、高知市公有財産規則上許されない旨主張している。

(三)  しかし、高知市公有財産規則(〔証拠略〕)には、市長の承認を要する他の諸規定についても、事後承認の可否についての定めは存在せず、規定の文言上、当然に事後承認を否定する趣旨とは考えられないし、その事務の性格上も、通常、一旦用途廃止すれば、事後承認を得られない場合に回復困難な損害を生ずるともいえないから、本件において、事前に市長の承認を得なかった瑕疵は、事後承認により治癒されたというべきである。

2  本件売買についての市長の承認の欠如

(一)  高知市職務権限規程(〔証拠略〕)によれば、四二条八号で、一件一〇〇万円未満の不動産譲渡の決定及び契約については、管財契約課長の専決事項とされるとともに、八条では、異例に属し、又は将来重要な先例となるべきもの、紛議論争にわたるもの又は処理の結果紛議論争のおそれがあるもの、その他重要であると認めるもの等については、専決事項であっても市長の決裁を受けるべきこととされている。

(二)  そこで検討するに、右規程が、行政の統一的かつ能率的運営を図ることを目的とすること(二条)から考えて、契約金額等事案の内容によって専決権者に授権がされている事項について、例外的に市長決裁とする八条の趣旨は、決裁時点で紛議論争のおそれを予見した場合等には、市長決裁を受けるべきことを定めたものであり、そうでない場合に、仮に事後的に紛議論争等が発生しても、その専決行為を違法とする趣旨のものとは考えられない。けだし、将来の紛議論争の可能性等を一義的に予測することは困難であり、事後的に紛議論争等が発生した場合に、遡って決裁時に予見可能であったか否かが問疑され、当該決裁による行為が違法となるとすれば、不必要な市長決裁を増加させ、行政の能率的運営を図ることが阻害されるからである。

(三)  そして、本件においては、管財契約課長等の決裁関係者において、本件土地の現況等からみて紛争が生ずることはないと判断したことが窺われるから、仮にその点に多少の認識不足があったとしても、専決事項として決裁したことは職務権限規程に反するものとは言えない。

3  原告らの同意の欠如

(一)  市の保有する公衆用道路の用途廃止等の際の利害関係人の同意については、法律・条例等の法文上要求されているものではないから、どの程度の利害関係を有する者について同意を得る取扱とするかは、行政庁の裁量に委ねられるものと考えられるが、その範囲を恣意的に決定できるものではないことも当然であって、合理的理由なく例外的取扱をすれば、公平原則違反により裁量の範囲を逸脱するものとして違法となる可能性がある。

そして、市の保有する公衆用道路の用途廃止に際しては、当該道路が隣接する土地所有者の唯一の生活道である場合等は、その所有者は、用途廃止について法律上の利害関係を有すると考えるべきであるし、また、右の程度に達しなくても、隣接する土地所有者は、当該道路を日常利用する等事実上の利害関係を有するものであるから、隣接土地所有者に利害関係人としての同意を得るのが一般であり、前記のように、高知市の運用としても、通常、隣接地所有者の同意を得るものとされている。

そこで、本件土地について、通常の隣接土地所有者の場合と異なる取扱をする合理性の有無について検討する。

(二)  前記のとおり、市道路課等において、原告らが同意を要する利害関係人でないと判断した理由は、概略、本件土地が狭小で、南側道路の拡幅の計画もなく、現況として低木等が繁茂し、原告らも含めて全く利用されていないこと等であり、これに対し、原告らは、概略、将来の利用の可能性、必要性、さらにそれが原告ら所有土地の経済的価値につながること等を主張する。

(三)  そこで検討するに、本件土地は、従前は、被告博明所有の宅地であり、過去にも公衆の通行の用に供せられていたことはないこと、本件売買当時の現況としては、低木等が繁茂して隣接する水路の上まで伸びている状況(〔証拠略〕)であって、誰も通路として利用していないことは明らかであること、原告勇の土地は、分筆前は、東側の市道に面していたものであり、また、分筆後においても、水路上のコンクリート製床板橋により南側の市道を利用できるから、原告勇の土地の利用との関係でも、本件土地を通路として利用することが生活上必要であるとは言い切れないこと、また、将来においても、本件土地自体は、幅が○・八四メートルと狭く、また本件土地取得後一二年を経た本件用途廃止時点でも南側道路の拡幅の計画は全くなく、今後、本件土地が道路として整備される見込みがないこと等の諸事情を考えると、前記認定の本件土地と二六七一番一三の土地との交換の際の経緯を考慮しても、なお、本件土地は道路としての機能を有しておらず、実質的には宅地と変わらないものというべきである。

そして、原告らの主張するような本件土地の利用方法も確かにあり得るし、また、現実には通路としての実体がなくても、地目上道路である土地と接する長さによって土地の価格が影響を受けることも否定はできないとしても、通常、道路に隣接する土地所有者につき利害関係人として同意を得る主たる趣旨は、当該道路を日常利用するということに基づくものと考えられ、現に通路として利用している場合の利害関係と、本件原告勇のように、将来、道路として整備された場合の期待利益もしくはその反映である土地価格への影響の利害関係とは、質的に異なるものであり、右のような場合に、通路として利用されている場合の用途廃止等と異なる取扱をすることは、相当の合理性があり、本件において原告らの同意を得ない取扱としたことは、裁量権を逸脱するものとは言えない。

4  随意契約の選択

(一)  原告は、本件売買の手続は、一般競争入札等によるべきであり、随意契約によったことは違法である旨主張する。

(二)  しかし、本件土地のように狭小で、幅○・八四メートルの細長い土地については、本件土地単独で宅地等として利用するのは困難であり、被告博明以外の人間が購入した場合、土地の利用方法が著しく限定されるうえ、北側隣接地の所有者である被告博明と、本件土地の利用等について紛争発生の原因となる可能性が強いことは否定できないから、市の「本件土地は、面積も狭小で、隣接者しか利用できない土地である。」との判断は相当であり、競争入札を不適当とする特段の事情があると認められる。

5  本件売買の価格

(一)  地方自治法九六条一項六号、二三七条二項によれば、市の財産を適正な対価なくして譲渡することは、原則として禁止されており、右の「適正な対価なくして」とは、無償の場合のみならず、著しく低廉な対価による場合も含まれる。そして、売買価格は、対象物の客観的価値のみならず、当事者間の交渉経過、売買の必要性等多様な要素によって形成されるものであるから、売買価格の決定に当たっては、相当の裁量権が認められるものではあるが、正当な理由なく時価に比べて著しく低廉な対価で売買をする場合は、裁量権を逸脱するものとして違法となると考えられる。

(二)  そこで、まず、本件土地の時価について考えるに、一般に、土地の適正価格の判断に際しては、公示価格を規準としつつ、具体的な土地価格の形成に影響を及ぼす多様な要素を総合的に考慮する必要がある。

そして、本件では、甲第四一号証によれば、近隣の路線価格が一平方メートル当たり六万七〇〇〇円であることは認められるが、他方、市の依頼した不動産評価員四人の評価の平均は、一平方メートル当たり四万八四五〇円であり、市の採用した評価格四万六六〇〇円は、右平均額に最も近い価格であること、右各評価員の評価は、いずれも著しい格差がないこと、また、本件土地は、南側の道路との間に水路を隔てていること等から考えて、本件土地の適正な時価を、当初四万六六〇〇円と判断したことは不当とはいえない。

(三)  次に、右価格から、さらに、減額したことについて検討する。

(1) 市道路課、管財契約課において、右のような減価が相当であると判断した根拠としては、概略、私道買収に際しては右の減価基準があること、本件土地が、元は被告博明の所有であり、二六七一番一三の土地との交換により取得したものであること、前記評価員の評価は宅地を前提としたものであるが、本件土地は地目が公衆用道路であり、水路の浚渫場としても利用できることを考慮して取得した土地であること、本件土地が狭小で南側道路の拡幅の予定もないから、道路として利用できる見込みがないこと、将来、維持管理や境界等の問題が生ずるおそれがあること等である。

(2) まず、私道買収の減価基準については、売買価格に関して認められる裁量の範囲の一事例として参考にすることは考えられるが、本件と適用場面を異にしており、本件において、これを直接準用して、減額の根拠とすることはできないというべきである。

(3) 次に、交換の経緯についても、被告博明が元の所有者であること自体は、減額すべき理由とはならないというべきである。なお、交換の対象とした二六七一番一三の土地の方が、道路からより離れており、本件土地の方がもともと価値が高かったものと考えれば、元の所有者に本件土地を払い下げる際に一定の減額をすることは考えられないではないが、右の交換は被告博明の申し出により、等価値との合意の下でなされたことも考えると、右のような趣旨の減額も相当とは言えない。

(4) また、本件土地は地目が公衆用道路であり、水路の浚渫場としても利用できることを考慮して取得した土地であることについても、前記のように、本件土地の現況が道路としての機能を喪失しており、実質的に宅地であるとの前提で用途廃止し、売却する以上、宅地と異なることを理由として減額するのは合理的ではない。

(5) これに対して、本件土地が道路として利用できる見込みがなく、将来、維持管理や境界等の問題が生ずるおそれがあることは、減額の理由として一応の合理性があると考えられる。

何故なら、本件土地を道路として利用できる見込みがなく、また、本件土地単独の利用が困難であると判断することは、前記諸事情に照らして不合理ではなく、それを前提として、将来の維持管理の費用や境界等の紛争発生の可能性を考慮すれば、本件土地を市有財産として保持することによる市の利益もしくは公共の利益は、土地自体の客観的価値よりもかなり小さいものと考えざるを得ず、売却自体が市の利益となり、土地の効率的利用にも資する面もあるのであるから、時価よりもある程度の減価をして売却することが、必ずしも、市の財産上の損失をもたらすものとは言えないからである。

(四)  次に、右減額を三〇パーセントとしたことについて検討する。

(1) 一応の合理的な減額理由が認められる場合でも、時価よりどの程度減額するかということは、売買による市の損益を十分検討した上でなされるべきであるし、本件のように、特定人に売却するのが相当である場合には、特定の者が不公平な利益を受けることを避けるために、減額の幅等については、特に慎重な配慮がなされることが相当である。

(2) そこで、判断するに、本件においては、右のような慎重かつ十分な検討・配慮がなされたと言えるか否かについては、疑問の余地もないではないが、しかし、市道路課、管財契約課において、前記の諸々の利害を考慮し、減額率について、裁量の範囲を限定するために、私道の減価基準を参考にして、これを客観的資料として使用していることを考えると(前記のとおり、これを直接準用することは根拠がないにしても)、右減額の幅は、未だ当不当の範囲に止まり、裁量権の範囲を逸脱した違法な価格設定であるということはできない。

6  本件用途廃止等の目的

(一)  原告らは、本件土地の取得の経緯等から、本件土地の用途廃止が許されるのは、道路拡幅工事及び水路の浚渫場として利用する必要性、可能性が消滅もしくは減少する等の特段の事情が存する場合に限られるべきであり、本件用途廃止及び本件売買は、右のような特段の事情がなく、公共用財産として存置することが不適切、不要な場合ではないにもかかわらず、被告博明もしくは都築祐司個人の利益もしくは便宜のためにのみなされた旨主張する。

(二)  しかし、本件においては、前記のとおり、本件土地取得時点では、「将来道路拡幅工事を行う際にも利用度が高いこと」に着目したものであり、本件土地の形状のままで、市道として整備する計画は当初からなかったこと、土地取得から一二年を経た時点でも本件土地を道路として利用できる見込みがないこと、浚渫場としての利用は道路としての本来的用法ではなく、本件土地を道路等に使用できるようになるまでの間は浚渫場としても利用できるという意味に止まると考えられること等からみて、維持管理の費用及びそれに伴う紛争発生の可能性等も考慮し、宅地に地目変更して隣接所有者に売却することは、何ら不合理ではなく、それは、従前、本件土地を取得した経緯が、公衆用道路として寄付を受けた土地との交換によって取得した土地であったとしても、別異に解する理由とはならない。

7  以上から、本件用途廃止及び本件売買が違法であるとの原告らの主張は、いずれも失当である。

四  よって、原告らの本訴請求は、その余を判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊永多門 裁判官 野尻純夫 齋木稔久)

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